~ゲルの壊れにくさを最大約40倍向上、食品や化粧品など幅広い分野での応用に期待~
◆本研究成果のポイント
・オレオゲルを構成する脂質ウィスカー結晶(※3)の「形状」を、不純物の取り込みによって制御することで、ゲルの壊れにくさを示す機械的強度(臨界ひずみ)(※4)を最大約40倍に高められることを実証し、食品等のテクスチャ制御が可能になることを示した。
・結晶の「長さ」と「形状」という2つの要素を制御する新たな手法により、従来技術に比べ、安定的なオレオゲルの作製が可能となり、植物性食品(プラントベースフード、以下PBF)(※5)の食感改良(植物性代替肉のジューシーさなど)に貢献できるオレオゲル作製の基盤技術の確立に期待。
◆概要
世界的な人口増加に伴い食糧供給の安定化が求められる中、タンパク質供給源としてPBFが注目されています。しかし、その大きな課題は「ジューシーさ」の再現が難しい点が挙げられます。オレオゲルは、この課題を克服する強力な手段とされています。本研究では、オレオゲルのゲル化剤として食経験が豊富な油脂(トリアシルグリセロール)である高純度PSP(1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(※6)を使用しました。そして、オレオゲルの物性(硬さや機械的強度)が、脂質ウィスカー結晶の「長さ」と「形状」の制御によって決定されることを明らかにしました。具体的には、結晶化の際に行う温度調整工程(テンパリング)の温度が上がると、結晶の長さが増し、貯蔵弾性率が増加することを明らかにしました。さらに不純物を意図的に利用することで結晶の形状を蛇行状に変え、臨界ひずみ(機械的強度の指標)を最大で約40倍も向上させられることを示しました。
この成果は、オレオゲルのテクスチャを自在に制御できる新たな基盤技術を確立するものです。PBFやパン、菓子、調味料といった加工食品だけでなく、サプリメントや化粧品、さらには工業製品まで、オレオゲルのテクスチャ制御が重要となるさまざまな分野での応用が期待されます。
本研究の成果は、国際的な科学雑誌Food Research Internationalのオンライン版に2025年12月4日付で掲載されました。
◆背景
研究グループはこれまで、食経験が豊富なトリアシルグリセロール(TAGs)に着目し、完全水素添加パーム中融点画分(FHHPMF)(※7)を用いれば、僅か0.5 wt%という少量の添加濃度でゲル化が起こること、また、透過型電子顕微鏡(TEM※8)を用いて、これが脂質ウィスカー結晶の形成に起因していることを明らかにしてきました。この脂質ウィスカーオレオゲルは、ネットワークの不安定化が起こりにくく、20℃で4ヶ月間油漏れがないという高い保存安定性を持つため、実際の食品応用への期待が高まっていました。
◆研究成果の内容
これらの結果から、脂質ウィスカーオレオゲルの物理特性を完全に制御するためには、結晶の長さだけでなく、不純物を利用した結晶の形状(形態)の制御が極めて重要であることが示されました。
◆今後の展開
◆論文情報
著者名:Haruhiko Koizumi1※, Fumiya Nakano1, Noritaka Oishi2, Tomoya Yamazaki3, Yuki Kimura3, Kazuhiro Hamamoto2, Satoru Ueno1
著者所属:広島大学 大学院統合生命科学研究科1,ミヨシ油脂2,北海道大学 低温科学研究所3
責任著者※
掲載誌:Food Research International
掲載日:2025年12月4日(木)
DOI:10.1016/j.foodres.2025.117999
なお、本研究は、JSPS科研費 JP24K01362、及び、北海道大学 低温科学研究所 共同研究 25G022の支援により行われました。また、広島大学から論文掲載料の助成を受けました。
◆用語解説
液体油を少量(0.5 wt%など)の固体成分(ゲル化剤)のネットワーク構造内に保持させ、固体状にしたもの。バターやラードなどの固体脂肪の代替として、食品のテクスチャ改善を目的として研究が進められている。
※2 貯蔵弾性率
粘弾性を持つ材料の変形に対する弾性(元に戻ろうとする力)の大きさを表す指標。食品の硬さやしっかりとしたテクスチャに関連する。
※3 脂質ウィスカー結晶
非常に細く長く、単結晶構造を持つ繊維状の脂質の結晶。単結晶で構成されるため、ネットワーク構造が不安定化しにくく、高い保存安定性を持つ。
※4 臨界ひずみ
オレオゲルのネットワーク構造が破壊され、固体(ゲル)から液体(ゾル)へ転移する際のひずみの値。この値が大きいほど、そのオレオゲルは外部からの力に対して強く、機械的強度が高いことを示す。
※5 プラントベースフード(PBF)
植物由来原料を用いて作られた食品。肉や卵、ミルクなどの動物性食品を再現したものもある。健康志向や環境意識の高まりを受け注目を集めている。
※6 1,3-ジパルミトイル-2-ステアロイルグリセロール(PSP)
トリアシルグリセロール(TAGs)の一種であり、完全水素添加パーム中融点画分(FHHPMF)の主要な構成成分。
※7 FHHPMF(完全水素添加パーム中融点画分)
パーム油の中融点画分(HPMF)を最大限に水素添加して固形化した油脂。
※8 透過型電子顕微鏡(TEM)観察
電子を使って物質を透かして観察する顕微鏡で、100万分の1ミリ単位の細かい構造まで見ることができる。
【問い合わせ先】
広島大学 大学院統合生命科学研究科 准教授 小泉 晴比古
Tel:082-424-7935
E-mail:h-koizumi@hiroshima-u.ac.jp
ミヨシ油脂株式会社 戦略企画本部 技術研究部 大石 憲孝
Tel:03-3602-8791
E-mail:ooishin@miyoshi-yushi.co.jp
北海道大学 低温科学研究所 教授 木村 勇気
Tel: 011-706-7666
E-mail:ykimura@lowtem.hokudai.ac.jp
<広報・報道に関すること>
広島大学 広報室
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北海道大学 社会共創部広報課
Tel:011-706-2610
E-mail:jp-press@general.hokudai.ac.jp
【本研究ならびにお客様・報道関係者からのお問い合わせ先】
ミヨシ油脂株式会社 経営企画部 コーポレート・コミュニケーション課
担当:清水
e-mail:info@miyoshi-yushi.co.jp
